ジュゴン
 

 「沖縄のジュゴンの保護は世界の声」(上)
 〜国際自然保護連合(IUCN)アンマン大会へ参加して〜
 細川太郎(ジュゴンネットワ−ク沖縄事務局次長)
 【ジュゴン保護支援基金・神奈川主催「IUCN会議報告会」から】

 IUCN(国際自然保護連合)は世界の七十八カ国百十二政府機関とNGO七百三十五団体が加盟する世界最大の自然保護の連合体である。三年から四年に一度開かれる世界自然保護会議の第二回が、去る十月四日から十一日までの間、ヨルダンの首都アンマンで開かれた。私はジュゴン保護支援基金・神奈川の全面的な支援を得てこの会議へ参加することができた。

●参加目的
 私の会議参加目的は当初二つだった。一つは、日本のNGO六団体(財団法人世界自然保護基金日本委員会、財団法人日本自然保護協会、財団法人日本野鳥の会、日本雁を保護する会、野生動物救護医師会、エルザ自然保護の会)が提出した勧告案「沖縄島のジュゴンの保全」および「ノグチゲラとヤンバルクイナの保全」を採択させるためのアピール活動を現地で行うこと。
 二つは、勧告決議を要請する四万七千四百三十四個人と八十三団体の賛同署名を議長へ渡すこと。
 この二つに加え、現地へ入ってから分かったことだったが、勧告案の文案調整作業にも参加した。

●決議を棄権した日米両政府のあいまいな態度
 先に結論を申し上げると、もうご存知のとおり、勧告案は採択された。しかしながら日米両政府は反対意見は述べなかったものの、コンセンサスに加わることを棄権した。これをどのように解釈すればいいかは私もよく分からないのだが、要は「国際世論の批判は受けたくない。しかしながら基地問題も絡んでいるので積極的に保全をしたいくない」というようなあいまいな態度を取った。

●勧告案の変遷
 IUCN第二回会議では百六件の議案が提出されていた。事前にIUCN側から同勧告案のスポンサー(NGO六団体=世界自然保護基金日本委員会、日本自然保護協会、日本野鳥の会、日本雁を保護する会、野生動物救護医師会、エルザ自然保護の会)に対して、「沖縄島のジュゴンの保全」と「ノグチゲラとヤンバルクイナの保全」を「一つの案に統合してくれないか」と求められていた。
 二月十五日時点での原案と呼ぶべきものではジュゴン保護とノグチゲラ、ヤンバルクイナの保護とは別々のものだった。
 【二月十五日時点の原案】
 《日本政府に対し、沖縄のジュゴンおよびその生息地についての詳細な調査を行い、地域個体群とその生息地の保全計画を立案すること、および、日米両政府に対し、ジュゴン生息域とその隣接地域における軍事空港の建設と軍事演習については、生物多様性保全の観点から十分に再検討することを要請する》

 この傍点を打った部分がその後の文案調整のなかでどのように変わっていったのかということを見てみたい。ほかの部分にも変更が多々あったのだが、私が感ずるにその部分が最も象徴的であったため、ここではその部分を取り上げてみた。

 二月十五日から十月四日の間に日本政府とNGOとの間で話し合いが行われている。国内で解決されたならばIUCN会議へ持ち込むことはなかったわけだが、それは不可能だった。二月から十月までの間に日本政府とスポンサ−とが妥協できる線を探りながら作ったのが十月四日付けの文案である。この時点ではアメリカ政府とは未調整だった。
 【十月四日時点の日本政府―NGO調整文案】
 《日本政府に対し、以下のことを要請する。
 沖縄のジュゴンおよびその生息地についての詳細な調査を行い、地域個体群とその生息地の保全を立案すること、また、ジュゴン個体群のさらなる減少をくい止め、その回復を図るための保全方法をできる限り早急に実行すること。
 日米両政府に対し、以下のことを要請する。
 ジュゴン生息場所とその隣接地域における軍事空港建設および演習に関する計画について上記の科学的な調査の結果にもとづいて十分に検討し、ジュゴン個体群の生存を確実にするための方策を講じること》

 この時点ではまだ「演習」という言葉は残っているし、「検討」という言葉も残っている。会議の場で行われたNGOと日米両政府との四日間話し合いを経て十月十日に出来上がった文案は次のようになった。
 
●「演習」と「検討」の文言が消える

 【十日十日時点の日米両政府―NGOとの四日間の話し合いを経た文案】
 《日本政府に対し、以下のことを要請する。
 ジュゴンの生息場所やその周辺における軍事施設の建設に関する自発的な環境アセスメント(EIA)を、できるかぎり早急に完遂すること、
 ジュゴン個体群のさらなる減少を食い止め、さらに、その回復に役立つジュゴン保護対策をできるかぎり早急に実施すること、
 山原の生物多様性と絶滅のおそれのある種およびジュゴンの地域個体群の保全計画をできるかぎり早急に作成し、これらの種とその生息地の詳細な調査研究を行うこと、
 自発的な環境アセスメントの結果を考慮しながら、それにもとづいてジュゴン個体群の存続を確実にするために役立つ適切な対策を講じること、》

 「軍事空港建設」や「演習を検討しろ」というような文言がなくなってしまった。「自発的な環境アセスメント」とは法に則らないものという意味である。
 NGOの第一の目標は勧告案の採択だった。勧告案が採択されなければ逆効果になってしまう。そのため中身の妥協はやむを得なかったとスポンサー側はそのように考えているようだ。このような勧告案が提出され、もし採択されなかったら世界に見放されてしまうということになり、「もう沖縄のジュゴン保護はいいじゃないか」というような話になってしまう。中身のある程度の妥協はしてもとにかく勧告案は通さなければいけないという判断が働いたわけだ。
 中身を理想的なものにしようとこだわることによって日米両政府が反対に回った場合、両政府だけの反対なら勧告案は採択される。スポンサー側が懸念していたのは日米両政府が反対することによって、それに同調する国が現れてしまうことだった。そうなると勧告案が採択されないことになってしまう。そこでスポンサー側は日米両政府が妥協する案を作るのに専念したというのである。

●ジュゴン保護は世界の声・意思


それでは沖縄のNGOはIUCN会議勧告決議によって得るものがなかったのか。決してそうではないと私は考えている。勧告案が国際会議の場で採択されたことで、日米両政府がその時どのような立場を取ったにせよ、「沖縄のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」は世界の声となった。つまり、日本のNGOだけが求めていることではなくて、世界が「沖縄のジュゴンを守れ」ということになったわけだから、大変評価できることだと思う。

●国のジュゴン保護の公約を引き出した

 本会議で採択される前にスポンサーであるNGOの発言、その次に日本政府、アメリカ政府の発言があった。そのなかで日本政府が、
 《われわれは、ジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの生存を保証するために最大限の努力をする。この発言を記録に残し今会議の決議集の中に盛り込んでほしい》
 と発言した。私は、これは公約だと受け取っている。今後、この公約が守られるように私たちが注意深く見守る必要があると思う。
       (「いゆまち」第31号から)


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